フレンドリーな船のコンセプトをそのままタイトルにした、リピーター向け会員誌「ふれんどしっぷ」。
1998年にクルーズ客船「ぱしふぃっくびいなす」が就航&創刊以来、制作全面に携わってきました。
年に3~4回、「ぱしふぃっく びいなす」に乗船し、お客様や乗組員に直接取材した結果を誌面に反映していくのが、この冊子の特徴です。
取材期間は短い時で3~4日、平均約10日間で、最長35日間の海外クルーズも経験しました。
必要に応じて、公式ホームページのコンテンツ「クルーズ日記」の取材を並行して行うこともあります。
その他船内のイメージや停泊中の「ぱしふぃっく びいなす」の撮影、雑誌広告・新聞広告制作に関連した取材や撮影など、クルーズ中は結構盛りだくさんです。
最近では、テレビ番組のレポーターとしてのお仕事もありました。
客層は団塊の世代以上の比率が最も高く60代・70代が中心で、80~90代というのも珍しくありません。
ご夫婦、お友達同士、三世代のほか、最近では男女に関係なくシングルでの乗船も増えてきました。
リピーターのお客様も多く、中には1000泊以上を達成されたヘビーユーザーも。
それぞれのお客様が、船旅という非日常な世界を満喫しておられます。
特筆すべきは、多くのお客様が観光目的ではなく船そのものを楽しんでおられる点。
大好きな船に乗ってさえいれば、行き先はどこでもOKなのです。
日常の喧騒を忘れて、思い思いのスタイルですごしておられるお客様の船上生活。
だからこそ船旅を楽しんでおられるお客様にとって取材は、ある意味迷惑な話でもあります。
いきなり名刺を差し出しても、本音は語ってくれません。
だからといって声をかけなければ、仕事になりません。
決して偉ぶることなく、かといってあまりへりくだることもなく。
これといったコツがあったわけでもなく、話術を習ったわけでもなく。
初めのころはどこから手をつけていいか途方に暮れた時もありましたが、おかげさまでこの10数年間、お客様とうまく接してこれました。
ある時は夕食のテーブルで食事をご一緒しながら。
ある時は船内イベントでともに一喜一憂しながら。
またある時は展望浴室で裸のつきあいをしながら。
ノートをデンと開いてペンを構えたり、大げさに写真を撮ることも避けています。
客でもなく乗組員でもない、取材スタッフという微妙な立場。
「池ちゃんなら大丈夫大丈夫」と、アテンドはほとんどなし。
今思えば、取材ライターやカメラマンにみえないプロらしからぬ雰囲気が、お客様に安心感を与えたのかもしれません。
「今度いつ乗船するの?」
「池田さんが乗るんだったら私も乗ろうかな」
こんな販促に貢献するような会話もしょっちゅう。
お土産や記念写真や手紙もたくさんいただきました。
趣味のライブに来ていただいたり、自分史のお仕事をいただいたこともありました。
海外クルーズでは、「行列のできる写真教室」をしたこともありました。
最長4時間、昔話に付き合わされたシンガポール沖。
夫婦間の不仲相談や義理嫁との確執相談、お葬式用の写真撮影依頼などなど、笑うに笑えないユニークなエピソードは多々あります。
クルーズ客船という、なかなか体験できない特殊な取材現場。
そんな最前線に10年以上いたからこそ身についた取材力と人間力。
人生の大先輩であるお客様から教わったことは数知れず。
いつの間にか取材という枠を超えて、多くのお客様との絆も強まりました。
もしこの仕事に携わっていなかったら、大きな刺激もなく淡々と仕事をこなしていたでしょう。
真のライフワークとは、こういうことをいうのかもしれません。
会員誌のタイトルであり、船のコンセプトである「ふれんどしっぷ」。
この7文字は、オフィスアイのスピリットそのものでもあるのです。
2014年秋/文・写真 池田厚司